労災保険を申請し、給付を受けるためには、労災認定を受ける必要があります。また、労災保険からの補償には、慰謝料は含まれていないので、労災発生に責任のある会社に対して、慰謝料を請求することが可能です。




1.労災認定基準の条件と補償とは?弁護士に相談すべき4つのケース

労災保険は、申請をしたら無条件で給付を受けられる制度ではなく、国が労働災害であると認める「労災認定」を受けなければなりません。そのためには、「労災認定基準」をクリアしていることが必要です。
ここでは、労災認定基準についての説明と、受けられるお金、弁護士に相談したほうが良いケースなどを解説します。

労災保険制度について

通勤や仕事中にケガや病気になったとき、労働者は労働者災害補償保険(労災保険)から給付を受けることができます。労災保険制度は、労働者の支援や社会復帰を進めるための国の制度です。
労働者を一人でも使用する事業者は、労災に加入しなければならず、契約社員やアルバイト、パートであっても、労災にあった場合は保険給付を受けることができます。
労災保険では、治療費や休業損害、逸失利益などの補償を受けることができますが、慰謝料は支払われません。

労災認定基準について

労災給付を受けるためには、労災の認定基準を満たす必要があります。
業務災害かどうかは、下記の2つの要件から判断されます。

●業務遂行性
労働者がケガや病気をしたとき、労働契約に基づき、事業主の支配下にある状態で、業務をしていたかどうかという要件です。

●業務起因性
ケガや病気の原因が、仕事にあるかどうかという要件です。

ケガが労災と認められる場合

例えば、工場で働いていた従業員が、仕事中に機械に手を挟まれて骨折するようなケースでは、労災認定がなされます。
その他にも、出張の際、新幹線のホームで他人とぶつかって転倒して、足を負傷したり、アルバイト従業員が店のチラシを配っている際、突然、他人に蹴られてケガをしたケースなどで、労災認定がなされるでしょう。

病気が労災と認められる場合

病気の場合は、発症の時期や原因を特定することが困難なため、認定が難しいケースが多いでしょう。認定されやすいケースは、医療従事者が仕事中に患者からウイルスなどに感染して、病気を発症した場合です。
また、一定の脳と心臓の疾患が、業務による明らかな過重負荷を受けたことで発症した、と認められる場合は、労災による病気と認定されることがあります。長時間労働が続き、一定の労働時間外の負荷要因があれば、過労死として労災認定される可能性があります。

精神疾患が労災と認められる場合

精神疾患は、さまざまなストレス要因と個人のストレス対応力などが相まって、発症すると考えられています。
そのため、発症原因の特定は困難な場合が多く、労災認定されるのは、発症が仕事による強いストレスのせいであると、客観的に判断できるケースに限ります。

労災認定されたら支払われるお金

労災保険から支払われるものは、以下のような種類があります。

●療養給付
労災によってケガや病気になったときに、病院での治療費や入院費などが支給されます。指定医療機関で療養を受けた場合は、労働者本人の負担なく、無料で治療を受けることができます。

●休業補償給付
労災によって働けなくなった期間の収入をカバーするために支給されます。休業4日目から、1日あたり給付基礎日額の60%と特別支給金20%、合計80%の収入が日数分、支給されます。

●障害補償給付
治療を続けても障害が残ってしまったときに、障害等級に応じて、年金または一時金の支給が受けられます。後遺障害等級が1~7級は年金の支給、8~14級は一時金が支給されます。

●遺族補償給付
労災によって労働者が亡くなった場合に、その遺族に対して年金または一時金が支給されます。労働者が死亡した時点で、生計を同じくしていた遺族がいる場合は、遺族(補償)年金、遺族特別支給金、遺族特別年金が支給されます。

弁護士に相談した方がいいケースとは

(1)障害が残っているとき

障害が認定された場合は、その等級が適切なのかを検討する必要があります。
等級が一つ違うだけで、給付金にも大きな差が出るので、実際の症状に適した障害の認定を受けられたかどうかを確認するために、弁護士にご相談ください。

(2)未払い残業代があるとき

労災事故が起きたときは、長時間の時間外労働が原因になっていることがあります。もし、残業代が支払われていなければ、会社にしっかりと請求しましょう。
ただし、会社側もすぐには支払わないケースがほとんどです。未払い残業代の計算は複雑なので、弁護士に相談されることをおすすめします。

(3)退職勧奨や解雇をされたとき

業務災害の場合、会社は療養のために休業する期間およびその後30日間は、労働者を解雇することができません(労働基準法19条)。
労災事故を理由に、退職勧奨や解雇をされる場合には、すぐに弁護士にご相談ください。

(4)会社の安全配慮義務違反や不法行為が原因で、労災が起きたとき

労災事故の原因が、会社側の安全配慮義務違反や使用者責任にある場合は、会社に対して損害賠償を請求することができます。
ただし、すべて労働者側で会社の責任について主張立証しなければなりません。専門的な法的知識が必要となるため、弁護士に相談して進めることをおすすめします。



2.労災保険の申請には何が必要?診断書や申請の費用について

労災保険の申請には、労災保険給付を受ける種類に応じて、診断書を取得する必要があります。また、請求内容によって申請書も異なります。
ここでは、労災保険の申請に必要な診断書や申請の期限、費用などについてご説明します。

労災保険の申請で医師の診断書が必要になる場合

労災保険の申請で、医師の診断書が必要になるのは、以下のような場合です。

●障害補償給付の申請
治療を続けても障害が残ってしまった場合は、労災保険から障害補償給付を受けることができます。その際は、症状固定時点の障害の有無や程度について、医師に診断書を作成してもらう必要があります。

●傷病補償年金の申請
治療を開始した後、1年6ヶ月を経過してもケガや病気が治っていない場合は、1ヵ月以内に「傷病の状態等に関する届」を労働基準監督署に提出する必要があります。その際は、医師の診断書の添付が必要です。

●遺族補償給付の申請
労災によって労働者が死亡した場合は、遺族補償給付を受けることができます。その際は、労働者が死亡したことを証明するために、医師が作成した死亡診断書の添付が必要になります。

●葬祭料の申請
労災によって労働者が死亡し、葬祭を行った場合は、葬祭料が支給されます。その際は、労働基準監督署に「葬祭料請求書」と医師が作成した死亡診断書を提出する必要があります。

●介護補償給付の申請
労働基準監督署に、介護補償給付・介護給付支給請求書を提出する必要があります。その際は、医師が作成した診断書を添付します。ただし、傷病補償年金の受給者および障害等級第1級3号・4号または第2級2号の2、2号の3に該当する場合は、診断書の添付は不要です。また、継続して2回目以降の介護補償給付を申請する場合も、診断書は必要ありません。

診断書の作成にかかる費用や期間について

診断書の作成費用

労災指定病院を受診した場合は、病院から直接、労働基準監督署に診断書が送られるため、診断書の作成費用はかかりません。
一方、労災指定病院以外の病院を受診した場合は、労働者がいったん立て替えた上で、後日、労災保険に費用を請求します。
なお、障害補償給付の申請時に添付する診断書は、いったん労働者が立て替えて支払う必要があります。領収書を添付して請求することで、労災保険からは4000円が診断書費用として支給されます。

診断書の作成期間

一般的には、2週間程度かかることが多く、後遺障害診断書の作成は、さらに時間がかかることがあります。
診断書を取得する場合には、時間的に余裕をもって、医師に依頼することをおすすめします。

労災保険の申請で必要な書類・提出先について

労災保険の申請では、申請する給付内容に応じて、提出すべき書類が異なります。各書類の記入例は、厚生労働省のサイトを参考にするとよいでしょう。
また、記入方法でわからないことがあれば、最寄りの労働基準監督署に相談してください。

受診した医療機関に提出する書類

労災指定病院を受診した場合は、以下の書類を受診した医療機関に提出します。

●療養補償給付…療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7号)

所轄の労働基準監督署に提出する書類

療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7号)については、労災指定病院以外の病院を受診した場合は、受診した医療機関ではなく、労働基準監督署に提出する必要があります。

●療養補償給付…療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7号)

●休業補償給付…休業補償給付支給請求書(様式第8号)

●障害補償給付…障害補償給付支給請求書(様式第10号)

●遺族補償給付…遺族補償年金支給請求書(様式第12号)
遺族補償一時金支給請求書(様式第15号)

●葬祭料請求…葬祭料請求書(様式第16号)

●傷病補償年金…傷病の状態等に関する届(様式第16号の2)

●介護補償給付…介護補償給付・介護給付支給請求書(様式第16号の2の2)

労災保険の申請から支給までの流れ

労災保険のうち、療養補償給付の申請から支給までの流れは、以下のとおりです。

労災指定病院を受診する場合

労災指定病院を受診した場合は、事業主から「療養補償給付たる療養の費用請求書」(様式第7号)に証明をもらい、労災指定病院に提出します。
労災指定病院から労働基準監督署に、「療養補償給付たる療養の費用請求書」(様式第7号)が送られ、労災保険から直接、労災指定病院に治療費などが支払われます。そのため、労働者が治療費などを負担する必要はありません。

労災指定病院以外を受診する場合

労災指定病院以外を受診した場合は、いったんは労働者が治療費などを立て替える必要があります。
その後、事業主と病院から「療養補償給付たる療養の費用請求書」(様式第7号)に証明をもらい、労働基準監督署に提出します。
労働基準監督署では、書類の内容を踏まえて、労働災害であるとの認定をした場合には、労働者の指定口座に、立て替えた治療費などが支払われます。

弁護士のサポート内容

(1)適切な後遺障害等級認定を得ることができる

労災によって障害が残ってしまった場合は、後遺障害等級認定を受けることができます。
障害の程度に応じて、認定される後遺障害等級は変わり、補償額も異なってきます。そのため、労災保険から適切な補償額を獲得するためには、納得できる認定結果を得る必要があります。
弁護士は一人一人の傷病、症状にあわせて、後遺障害診断書の記載方法や提出する画像などについて、丁寧にアドバイスし、適切な後遺障害等級を得ることができるよう尽力いたします。

(2)会社が労災申請を拒否した場合にサポートする

会社によっては、保険料を支払っていない、労災が発生したことを労働基準監督署などに知られたくない、という理由で、申請に協力しない場合があります。
また、被災した労働者だけに責任があるように会社が報告し、労働者が不当な不利益を被るケースもあります。
弁護士に依頼することで、労災保険の補償給付申請をサポートします。労災が発生した後、すぐに弁護士に相談することで、迅速かつ適正な労災保険給付申請手続きを行う可能性が高まり、労働者の方が不利益を被ることを軽減することができます。

(3)労災不支給が出た場合に審査請求をする

労災保険給付の請求書を労働基準監督署へ提出した後、労災に該当しないという不支給決定が出る場合があります。その決定に不服があれば、管轄労働局に対して、審査請求をすることができます。
審査請求をしてから3ヶ月を経過しても結果が出なかったときは、国に対して「不支給処分の取消訴訟」を提起することができます。
弁護士に依頼すると、審査請求から裁判の手続きまでサポートいたします。



3.労災による慰謝料の相場は?金額の目安や注意点について

労災事故によるケガや病気などによる損害の一部は、労災保険から補償を受けることができます。
しかし、労災保険で補償されない慰謝料などは、労災の発生に関して落ち度のある会社に対して請求することになります。
労災による慰謝料請求の相場や、請求をする際の注意点などをご説明しましょう。

労災で会社に請求できる慰謝料の種類とは

会社に請求できる慰謝料とは、被害者が被った精神的苦痛に対する金銭的な補償で、以下の種類があります。

①入通院慰謝料
労災によってケガをしたことで生じた、苦しみ、不安などの精神的苦痛に対して支払われます。

②後遺障害慰謝料
労災による後遺障害で生じた精神的苦痛に対して支払われます。労災による障害等級認定を受けることができれば、認定された障害等級に応じた後遺障害慰謝料の支払いを受けることができます。

③死亡慰謝料
労災により労働者が死亡したことで生じる精神的苦痛に対して支払われます。被災労働者の慰謝料請求権を相続した遺族が請求します。なお、父母、配偶者、子どもといった被災労働者の近親者固有の慰謝料も認められます。

会社から支払われる慰謝料の相場とは

会社から支払われる、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の相場について説明します。

(1)入通院慰謝料の相場

一般的には、入通院期間や入通院日数などの客観的な要素に基づいて計算します。
入通院慰謝料の相場は、以下のとおりです。

入通院慰謝料の相場
(単位:万円)

(2)後遺障害慰謝料の相場

労災による後遺障害慰謝料は、認定された障害等級に応じて金額が定められているので、どのような等級認定になるかが重要になります。
後遺障害慰謝料の金額は、以下のとおりです。

等級 後遺障害慰謝料の金額
1級 2800万円
2級 2370万円
3級 1990万円
4級 1670万円
5級 1400万円
6級 1180万円
7級 1000万円
8級 830万円
9級 690万円
10級 550万円
11級 420万円
12級 290万円
13級 180万円
14級 110万円

(3)死亡慰謝料の相場

労災によって労働者が死亡してしまった場合は、遺族(相続人)に対して、死亡慰謝料が支払われます。死亡慰謝料の金額は、被災労働者の家庭での立場によって、以下のように異なります。

被災労働者の立場 死亡慰謝料の金額
一家の支柱 2800万円
母親、配偶者 2500万円
その他(独身、子ども、高齢者など) 2000~2500万円

たとえば、主に労働者の収入によって家族が生活していた場合は、「一家の支柱」に該当します。
一家の支柱とはいえないが、子育てや家事を担っていた場合は「母親、配偶者」に該当します。
なお、上記金額は、死亡した労働者の精神的苦痛に対して支払われる慰謝料なので、これとは別に遺族固有の慰謝料が認められる場合もあります。

労災で慰謝料の金額を左右する要素と注意点とは

上記の金額は、一般的なケースを想定した慰謝料の相場ですが、個別の要素によって、慰謝料の金額が変動するケースがあります。
ここでは、慰謝料の額を決める際に考慮すべき要素と、慰謝料請求の際の注意点についてご説明しましょう。

慰謝料額を決める際に考慮すべき点

実際の慰謝料の計算では、以下のような要素を踏まえて、金額を決める必要があります。
・ケガの内容および程度
・後遺症による日常生活や仕事への影響の有無や程度
・労働者の過失割合
・精神的苦痛の程度
・過去の裁判例の傾向
・障害等級の認定を受けているかどうか
・災害の発生原因となった加害者および会社の対応

たとえば、生死が危ぶまれる状態が続いたり、手術を繰り返し行った場合は、一般的なケースに比べて精神的苦痛は大きいといえます。そのため、相場の金額よりも慰謝料が増額される可能性があります。
一方、労災の発生原因が被災した労働者にもある場合には、過失相殺によって、慰謝料が減額されるケースもあります。

慰謝料請求をする際に注意すべき点

労災による慰謝料請求をする場合には、以下の点に注意する必要があります。

①会社の責任を立証する必要がある。
労働基準監督署による労災認定を受けただけでは、会社への慰謝料請求はできません。会社に慰謝料請求をするためには、会社に労災発生の原因があることを、労働者側で主張立証していく必要があります。
会社には、労働者が安全に働くことができるように配慮する義務(安全配慮義務)があるため、会社の安全配慮義務違反により労災が発生した場合は、会社への慰謝料請求が可能です。また、会社が雇用する従業員のミスによって労災が発生した場合には、使用者責任を根拠に慰謝料請求を行うこともできます。

②慰謝料請求権には時効がある
労災による慰謝料請求権には時効があるため、期間内に会社へ慰謝料請求を行う必要があります。法律構成や請求権の内容によって時効期間が異なるので、ご注意ください。

慰謝料以外に会社に対して請求できる損害項目

労災保険による補償は、慰謝料以外にも、以下の項目についても十分とはいえません。
・積極損害(入院雑費、付添看護費、装具購入費など)
・消極損害(休業損害、逸失利益など)

これらの損害項目については、労災発生に責任のある会社に対して請求することができます。
労災した労働者は、苦痛や日常生活への支障が生じるため、労災保険による補償だけで満足するのではなく、会社に対して請求できるかを検討することが大切です。

弁護士のサポート内容

(1)会社との交渉をサポート

労災保険だけでは十分な補償を得られないため、会社に対して損害賠償請求をしなければ、泣き寝入りすることになってしまいます。しかし、被災した労働者個人では、ケガの影響もあり、会社との間で適切に交渉を進めることが困難な場合もあります。
弁護士に依頼することで、代理人として会社と交渉を進めていくことができます。被災労働者の負担を軽減しながら、不利な交渉内容にならないようにサポートします。
なお、損害賠償請求の対象となるのは、直接雇用されている会社だけではなく、勤務する会社の親会社や元請会社などを対象にできる場合もあります。

(2)適切な損害賠償額を獲得するためにサポート

会社に対して損害賠償請求をするためには、労災事故の発生について、会社の責任を立証していく必要があります。しかし、労働者個人では、どのような証拠が必要なのか、どのように証拠を収集すればよいのかわからないことも多いでしょう。
弁護士であれば、労災の責任の立証となる証拠を収集し、会社の責任を明らかにした上で、交渉を進めていくことができます。
また、会社が交渉に応じない場合でも、裁判によって責任を明らかにし、適正な賠償金の支払いを求めていきます。



まとめ

労災に遭った場合には、労災申請をして労災認定を受けることによって、治療費や休業補償などの労災保険給付を受けることができます。また、労災保険の補償には、慰謝料は含まれていないので、会社に対して請求することになります。
しかし、労災で十分な補償が受けられないときや、会社に損害賠償請求をしたいとき、労災をきっかけに不当解雇されそうなときなど、お困りの場合は弁護士にご相談ください。

弁護士法人松本・永野法律事務所では、経験豊富な弁護士が丁寧にアドバイスし、高い評価を得ていますので、お気軽にお問い合わせください。労災トラブルで泣き寝入りしないよう、しっかりサポートします。
当事務所の弁護士費用解決事例お客様の声についてもご参考ください。