1.書面がなくても成立する労働契約
労働契約は、労働者および使用者の合意のみ、口約束でも効力が生じる「諾成(だくせい)契約」です(労契法6条)。つまり、雇用契約書がなくても違法性はないということになります。
もっとも労契法では「労働者および使用者は、労働契約の内容についてできる限り書面により確認するものとする」(同法4条2項)とし、さらに労基法でも「労働契約の締結に際して使用者は労働者に対して、賃金・労働時間その他の労働条件を明示する義務がある(同法15条1項)」としています。
そのことから、労働契約において書面は成立要件ではありませんが、使用者は労働者に対して労働条件を明示することは必須となります。早期に書面で労働条件を明確に合意しておくことで、後々のトラブル回避にもつながるでしょう。
2.求人票の見込み額はあくまで見込みです
募集広告や内定時に説明された見込み額と実際の賃金の額が異なると、紛争の原因となることがあります。
実は求人票や募集広告で明示される見込み賃金は、法律的には確定額ではなく、確定的な労働条件とはなっていないと考えられています。それらで明示した条件を履行しなければならない法的義務はないということです。
過去の判例では「求人票の見込額について当然に労働契約上の賃金請求権の内容となるものではない(東京高判昭和58年12月19日)」として差額請求を否定していますが、その一方で、求人者に対して誠実でないと説明義務違反が認められることもあります。
3.採用内定とその取消について
(1)採用内定の法的性質
労働契約は労働者および使用者の合意のみで成立すると先に述べましたが、「採用内定」については、「始期付解約権留保付労働契約の成立」と考えられています。
内定の時期から入社まで一定の期間があるため、入社までの間にやむを得ない事由が発生した場合には、内定を取り消し得るという解除権が留保された労働契約という考え方です。
(2)内定取消について
上記の通り、採用内定も一種の労働契約であることから、内定取消は使用者による解雇に当たり、理由のない一方的な取消は認められません。
事業者が内定を取り消す場合、その理由は内定当時に知ることができない、あるいは予測できない事実であり、内定取消が客観的に合理的で社会通念上相当であると認められるものに限られます。
使用者による恣意的な内定取消である場合、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償請求が認められます。
(3)内定辞退について
労働者側からの採用内定を取り消す「内定辞退」について、労働者には解約の自由が認められており(民法627条)、相当期間の予告期間を置く限り自由になし得ると考えられています。
もっとも、信義則に反する内定辞退の場合は、労働者が契約責任や不法行為責任を問われることもあり得ます。
4.試用期間と本採用拒否
(1)試用期間の法的性質
試用期間とは、入社後の一定期間を「試用」ないし「見習い」期間として、この期間中に正規従業員としての適正等を評価し、本採用とするか否かを判断する制度のことです。
試用期間については「解約権付労働契約」と考えられています。
試用期間中に職務についての適格性を判断し、適格性がないと判断された場合には、本採用を拒否することができる解約権の付いた労働契約です。(最判昭和48年12月12日)。
(2)本採用拒否について
試用期間中も「労働契約」が成立していますので、試用期間後または試用期間中に解約権の行使することは解雇に当たります。
解約権の行使については、解雇権濫用の法理の適用を受け、「試用期間の趣旨目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認されるもの」が求められます(労契法16条)。
客観的に合理的な理由の判断においては、正社員に対する解雇よりは使用者の裁量の幅が広いとされていますが、内定取消よりは厳格に判断される傾向にあります。