1.有期労働契約とは
有期労働契約とは、期間に定めのある労働契約のことです。企業によってアルバイト、契約社員、嘱託など名称は様々ですが、期間に定めのあるものはすべて有期労働契約といいます。
2.有期労働契約の「期間」について
(1)有期労働契約期間の上限
有期労働契約の期間の上限は、原則「3年」です。(労基法14条1項)。労基法14条1項1号、または2号に該当する場合には「5年」となりますが、それら上限を超える期間で労働契約を締結した場合は「無効」となります。
ただし、以下3つの例外を除きます。
- (ア)一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの。この場合には、「必要な期間」が契約期間の上限となります。
- (イ)高度の専門的知識等を有する労働者との間の雇用契約。公認会計士、医師、歯科医師、獣医師、弁護士との労働契約の場合、期限の上限は「5年」となります。
- (ウ)満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約。
(2)有期労働契約の期間の下限
有期労働契約の期間の下限については、法令上制限がありません。
ただし使用者には、「有期契約労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定め、有期労働契約を反復更新することのないように配慮しなければならない」という配慮義務があります(労働契約法17条2項)。
3.有期労働契約の「期間途中の解雇・解除」について
(1)使用者側からの場合
有期労働契約について使用者は、「やむを得ない事由」を除いて、期間途中で解雇することはできません(労契法17条1項)。
やむを得ない事由は、期間の定めのない労働契約における解雇に必要とされる「客観的に合理的で社会通念上相当と認められる事由」(労契法16条)よりも、さらに限定的で厳格な事由でなければなりません。
裁判例でも以下のように判示しています。
契約当事者は、契約の有効期間中は拘束されるのが契約法上の原則であり、労働者においては契約期間内の雇用継続に対する合理的期待が高いといえることから、同条にいう「やむを得ない事由」とは、期間満了を待たずに直ちに契約を終了させざるを得ないような重大な事由というと解するのが相当である。
(横浜地判平成26年7月10日)
(2)労働者側からの場合
労働者の側から期間途中で解約する際には、やむを得ない事由があるときは直ちに解除することができます(民法628条)。
やむを得ない事由が、労働者の過失によるもので、かつ使用者に損害が生じたものである場合には、労働者は損害賠償の責任を負うことになります(民法628条後段)。
4.有期労働者の不安を救う「雇止め法理」
(1)雇止めとは
雇止め(やといどめ)とは、契約期間満了のタイミングで企業が労働契約の更新を拒否し、雇用が終了することをいいます。
有期契約であっても一定の場合には、合理的理由のない雇止めは無効となります(労契法19条)。これは最高裁判所で確立された「雇止め法理」が条文化されたものです。
(2)「労働契約法19条」による雇止め法理とは
以下2つの前提に該当したとき、契約期間満了前または期間満了後に、労働者が遅滞なく、更新または有期労働契約締結の申込みをした場合、使用者は従前の有期労働契約と同一の労働条件で当該申込みを承諾したとみなすと、労契法19条で規定されています。
1つ目の前提として、当該の有期労働契約が次の2項目のいずれかに該当する場合に限ります。
- (ア)当該の有期労働契約が過去に反復して更新していて、その態様等から、期間の定めのない労働契約内容と社会通念上同一視できる場合(同19条1号)
- (イ)労働者が当該の有期労働契約が更新されると期待することについて合理的な理由がある場合(同19条2号)
2つ目の前提として、使用者がその申込みを拒絶することが以下に当てはまる場合となります。
- (ウ)客観的に合理的な理由がない場合
- (エ)社会通念上相当であると認められない場合
(3)最終更新合意と更新限度特約について
「最終更新合意」とは、有期労働契約について「契約期間満了した場合には更新しないこと」をあらかじめ合意しておくことです。
「更新限度特約」とは、有期労働契約を結ぶ際に「更新回数の限度」につてあらかじめ合意しておくことをいいます。
このように最終更新や更新回数について事前に合意することもできますが、これらの有効性については、裁判例では判断が分かれているので運用には注意が必要です(大阪地判平成17年1月13日、京都地判平成22年5月18日)。
(4)無期転換ルールについて
無期転換ルールとは、有期労働契約が更新されて通算5年を超えたとき、労働者の申込みがあれば、期間に定めのない労働契約に転換できるというルールです(労働契約法18条)。
(ア)無期転換申込権の要件
「同一の使用者」との間で締結された「2つ以上」の有期労働契約の契約期間を通算した期間が「5年」を超える労働者が、「現在締結している有期労働契約の契約期間が満了する日まで」に、満了日の翌日から労務が提供される「期間の定めのない労働契約締結の申込み」をすることが要件となります。
(イ)無期転換申込権行使の効果
労働者からの無期転換の申込みがされた場合、使用者はそれを承諾したものとみなされ、現在締結している有期労働契約の期間満了後に、当該使用者との間で無期労働契約が発生することになります。その際の労働条件については、原則として契約期間に関するものを除き、有期労働契約の時の労働条件を引き継ぎます。
(ウ)無期転換申込権の事前放棄
無期転換申込権を行使しないことを更新の条件とする等、使用者が有期契約労働者に対し、事前に放棄させることは公序良俗に反するため無効となります。
無期転換申込権の発生後に放棄された場合、労働者の自由な意思によるものと認められればそれは有効となります。
5.有期契約労働者を守る「パートタイム・有期雇用労働法」について
2020年4月1日に施行された「パートタイム・有期雇用労働法」。それまで有期契約労働者を守っていた「労契法第20条」を統合した法律で、解釈を明確化し、具体的なガイドラインも新たに策定されました。
(1)不合理な労働契約を禁止
「パートタイム・有期雇用労働法」では、正社員などの「無期契約労働者」と業務内容や伴う責任などが同じであるならば、期間の定めがあることを理由に賃金や福利厚生などに差をつけるといった不合理な労働条件にすることを禁止しています。
有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件に相違があるからといって、直ちに不合理となるわけではありません。相違がある場合は、業務内容や業務に伴う責任の程度、転勤や昇進といった人事配置や異動の有無や範囲、その他の事情から考慮され、判断されます。
労働条件には、賃金や福利厚生以外にも、災害補償や服務規律、教育訓練、付随義務、福利厚生など労働者に対する一切の待遇が含まれています。
(2)「パートタイム・有期雇用労働法」の効果とは
不合理であるとされた労働条件は無効となり、基本的には無期契約労働者と同じ労働条件が認められます。不合理な格差があった場合、差額を求める損害賠償請求が認められる場合もあります。