労災保険でカバーされない損害について(土木・建設業)

使用者側

労災保険でカバーされない損害について(土木・建設業)

2019.08.29

【顧問弁護士】労災と訴因減額(土木・建設業)


労災保険で補てんされる損害について

労働者が業務の遂行中に怪我をしたり、病気になったりしたとき、労働者は労働災害補償保険(労災保険)から保障を受けることができます。
労災保険では、治療費や休業損害、将来働けなくなった分の逸失利益などの補償を受けることができますが、慰謝料については労災保険からは支払われません。


労災保険から支払われる内容について

一般的に、労災保険は本人が会社の人事労務担当者へ申請し、その後、会社が労働基準監督署の手続きを代行します。
労災保険には、労働災害の実態にあわせて、さまざまな補償給付制度が用意されています。災害に遭った本人や、亡くなってしまった場合にはその遺族に対して、決められた項目の保険給付が行われます。 では、労災保険の補償内容を項目ごとにご説明いたします。


療養(補償)給付

怪我や病気をしたときに、病院に支払う治療費を給付する制度で、診察費、検査費用、画像費用、薬剤料、医学的処置や手術、入院費用などが対象です。治療費などは金額にかかわらず、労災保険によって認定された範囲の治療費が療養(補償)給付として支給されます。
なお、病院は労災治療にかかる医療費を、患者ではなく労災保険に直接請求するため、患者が窓口で医療費を支払う必要はありません。


休業(補償)給付

怪我や病気で働けなくなると、収入がなくなり生活が困窮する場合があります。その働けない期間の収入をカバーするのが休業(補償)給付です。
療養(休業)を開始した4日目から支給され、1日当たり、給付基礎日額の60%と特別支給金20%、合計80%、休業の必要性が認められた日数分が支給されます。 給付基礎日額は、労災が発生する前の給与などによって決まります。


傷病(補償)年金

労災での怪我や病気による治療を開始した後、1年6ヶ月を経過しても治癒せず、治療を継続する必要があり、一定の傷病等級に該当する場合に支給されます。傷病等級とは、厚生労働省が定めた病気の状態を示す区分です。


障害(補償)給付

治療を続けても心身に障害が残ってしまい、仕事の継続が困難になると、以前と同等の仕事ができないなどの理由で、収入が減ることが予測されます。
障害(補償)給付は、このような将来の収入の減少に対して支払われます。支給される金額は、労災保険によって認定された傷害の程度に応じて決定されます。
傷害の程度は、担当医師の診断書や医療記録、労働基準監督署の医局員との面談の結果などから、心身に残った傷害を等級別に判定し、その等級によって決まった金額が労働者に直接支給されます。
認定時点で一括支給される一時金方式(8級~14級)と、将来にわたって定期的に支給される年金方式(1級~7級)の2種類があります。


遺族(補償)給付

労働災害によって労働者が死亡した場合に、その遺族に給付されるのが遺族(補償)給付です。
労働者が死亡した時点で、労働者の収入によって生計を維持していた配偶者、子ども、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹に遺族給付を受ける権利があります。


葬祭給付(葬祭料)

労働者が労働災害によって死亡した場合、その葬儀などの費用を補償するのが葬祭給付です。
労災保険の葬祭給付では、実際にかかった葬儀費用ではなく、一般的に葬祭に必要とされる費用を考慮して、厚生労働大臣が定める一定の金額が給付されます。
現在の葬祭給付の金額は、①31万5000円+給付基礎日数の30日分、②給付基礎日額の60日分、このいずれか高い方が支給されます。


介護(補償)給付

障害(補償)年金または傷病(補償)年金を受ける者のうち、一定の傷害の程度で、すでに介護を受けている場合に支給されます。


労災保険と損害賠償請求について

労働者が会社に対して安全配慮義務違反による損害賠償を請求する場合、労災保険から給付された金額は、どのように取り扱われるかをご説明いたします。

労災事故によって、労働者が労災保険から治療費・休業損害・障害年金などを受け取っていた場合、すでに被害者の損害を補てんするという保険制度の目的を達成しているため、その金額については、会社に対する損害賠償から控除されることになります。これを「損益相殺」といいます。
ただし、労災保険のすべてが、損益相殺の対象として控除されるわけではありません。休業補償給付の中でも、休業補償特別給付金というものは、労災保険が労働者の補償のために特別に支給されるものなので、控除することはできません。
また、障害補償給付のうち、特別給付金についても、同様に会社に対する損害賠償からは控除されません。

労災保険以外にも、障害厚生年金や遺族厚生年金などの年金も、労災事故に伴って支給されることがあります。これらの年金は、労働者が受給した金額は損害賠償請求から控除されることになります。
ただし、年金でも、老齢厚生年金は損益相殺の対象にはなりません。
また、会社側で労災保険の上積みで加入している任意労災保険から給付を受け取ることもあります。
法律上、任意労災の加入は強制されているものではないので、損益相殺の対象として、損害賠償から控除されることになります。


慰謝料の額について

慰謝料は精神的損害を補てんするものなので、怪我の程度や事故態様、事故後の対応に応じて金額はそれぞれ違います。
また、金額の換算方法も人によって異なるため、金額の定め方は難しい問題です。
もっとも、裁判になったときには、通院や入院の期間に応じて一定の基準が設定されているので、その基準に基づいて計算することが一般的です。
また、後遺障害が認定された場合には、後遺障害に基づく慰謝料も発生しますが、これも裁判所では一定の基準に基づいて算定されます。


後遺障害の素因減額について

特に従業員の受傷の程度や症状が重篤で、後遺障害が残るような場合には、慰謝料の金額は高額になります。この場合、後遺障害等級そのものを争うことは難しいですが、後遺障害に基づく損害について争う余地はあります。
「素因減額」といって、もともと労働者側に持病など障害の原因となるような要因がある場合には、公平の観点から一部減額するという方法があります。労働災害補償においては、こうした素因が認識されることなく、後遺障害等級が認定されていることもあります。

労働者の方の健康保険における受診歴や、交通事故の自賠責保険の対応歴を見ると、もともとの持病や怪我があることが発覚することがあります。過去の受信歴や交通事故歴まで調べることはあまり多くはありませんが、特に軽微な怪我や病気で重篤な後遺障害が認定された場合には、素因が影響している可能性があります。
健康保険における受診歴や自賠責保険の対応歴を調査するための方法はいくつかありますが、どの方法を選択するにしても、弁護士に依頼することが必要です。
労働者の方を必要以上に疑う必要はありませんが、会社が直接賠償をする場合には、その他の労働者の方との公平を図るためにも、弁護士に対応を依頼し、慎重に対応した方がいい場合もあります。


まとめ

労災保険には、労働災害の実態にあわせて、さまざまな補償給付制度が用意されています。
しかし、労災事故によって、労働者が労災保険から治療費・休業損害・障害年金などを受け取っていた場合、その金額については、会社に対する損害賠償から控除されることになります。
また、もともと労働者側に持病など障害の原因となるような要因がある場合には、一部減額するという方法もあります。

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