退職後の競業を制限するための注意点

使用者側

退職後の競業を制限するための注意点

2019.03.11

退職後の協業を制限するための注意点


総論

【競業避止義務 2-1】では、退職後の競業を制限する就業規則や退職者と競業避止義務の特約が存在することを前提として、労働者が、雇用関係が継続中及び退職後に、競業避止義務に違反した場合、会社(使用者)が取り得る処分や請求等を述べました。
もっとも、実際上、多くの会社では、退職後の競業を制限する就業規則や退職者と競業避止義務の特約が存在しないと思われます。
まずは、競業避止義務契約の有効性の判断基準を検討したうえで、同契約の具体的な契約について、事前の方策としての就業規則の記載の仕方、事後の方策としての退職時の特約について、考えていきます。


競業避止義務契約の有効性について

雇用関係が継続中の競業が認められないことはもちろんですが、退職後について競業避止義務を課すことについては、退職者の職業選択の自由(憲法22条1項)を制限する等から、契約の仕方によっては、公序良俗に反し契約自体が無効(民法90条)となることもあります。そこで、競業避止義務契約の有効性について、判例によるポイントを確認します。
会社(使用者)側に守るべき利益があることを前提として、競業避止義務契約が過度に職業選択の自由を制約しないための配慮を行い、会社(使用者)側の守るべき利益を保全するために必要最小限度の制約を労働者に課すものであれば、当該競業避止義務契約の有効性自体は認められると考えられています。
具体的には、
①守るべき企業の利益があるかどうか、①を前提として競業避止義務契約の内容が目的に照らして合理的な範囲に留まっているかという観点から、
②従業員の地位が、競業避止義務を課す必要性が認められる立場にあるものといえるか、
③地域的な限定があるか、
④競業避止義務の存続期間、
⑤禁止される競業行為の範囲について必要な制限が掛けられているか、
⑥代償措置が講じられているか
等を考慮して、規定自体の評価及び同契約の有効性判断を行っていると整理することができます。 もっとも、判例はあくまで個別事案に対する判断として行っているため、このような規定であれば、必ず有効となると一概に言えない点には注意が必要です。


事前の方策 ~就業規則の記載の仕方~

就業規則の記載例
(競業避止義務)
従業員は、在職中及び退職後6か月の間、会社と競合する他社に就職及び競合する事業を営むことを禁止する。ただし、会社が従業員と個別に競業避止義務について契約を締結した場合には、当該契約によるものとする。

*上記の「ただし書き」について 就業規則に規定を設け、かつ、規定した内容と異なる内容の個別の契約を結ぶことは、就業規則に定める基準に達しない労働条件を定める契約の効果を無効とする労働契約法12条との関係が問題となります。しかし、上記のような「ただし書き」、すなわち個別合意をした場合には個別合意を優先する旨の規定しておけば、同条の問題は生じないことになります。

(退職金の不支給ないし減額)
⑴従業員が次の各号に該当した場合には、退職金を不支給とし、または減額する。
① 誓約に違反して退職後1年以内に競合会社に就職し、競合する事業の営業を行った場合
⑵退職金受領後に前項に違反する事実が判明した場合には、従業員は受領した退職金を返還しなければならない。


事後の方策 ~退職時の特約~

退職時の特約の例
(誓約書)
貴社を退職するにあたり、退職後1年間、貴社からの許諾がない限り、次に掲げる行為をしないことを制約いたします。
⑴ 貴社で従事した〇〇の開発に係る職務を通じて得た経験や知見が貴社にとって重要な企業秘密ないしノウハウであることに鑑み、当該開発及びこれに類する開発に係る職務を、貴社の競合他社(競業する新会社を設立した場合にはこれを含む)において行いません。
⑵ 貴社で従事した〇〇に係る開発及びこれに類する開発に係る職務を、貴社の競合他社から契約の形態を問わず、受注ないし請け負うことはいたしません。


まとめ

ここでは、退職後の競業を制限する就業規則や退職者と競業避止義務の特約が存在しない場合について、どのようにすれば、労働者による競業を防止し、競業による会社(使用者)の不利益・損害を避けることができるかを検討しました。
もっとも、退職時の特約は、あくまで退職する労働者との合意が成立しなければなりません。この段階では、退職する労働者にとって、競業をしないという特約をする義務やメリットはありません。そのため、退職時に特約を結ぶといった事後の方策は大変ハードルが高いものとなってしまします。
そこで、事前の方策である就業規則に、退職後の競業を制限する規定を明記することを強くおすすめします。ぜひ一度、会社の就業規則の記載を再確認してはいかかでしょうか。
もし、退職後の競業を制限する規定がなければ、弊所にご連絡ください。どのような規定を記載するべきか、一緒に考えていきましょう。


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