事例08解雇された従業員からの解雇無効を前提とした労働者の地位確認、不当解雇に伴う慰謝料請求等の訴訟に対し、従業員の自主退職を前提に月額給与の9か月相当額の解決金を支払って解決した事例
- 担当弁護士永野 賢二
- 事務所久留米事務所
ご相談内容
依頼主
H社(女性) / 職業:美装業
AさんはH社に勤務していましたが、役員の指示に従わず経理について専断的に行動すること、協調性を持って行動する指示に従わないこと等から、H社としてはAさんの退職を希望していました。
そのため、H社は、Aさんに対して退職勧奨を行いましたが、Aさんはこれに応じず解雇を求めたため、やむを得ずAさんを普通解雇しました。
この点、従業員の勤務態度や社内でのトラブル行為等を理由として適法に解雇することはかなり難しく、従業員の勤務態度等が社会常識に照らし明らかに逸脱しているとか、社内でのトラブル行為等について再三にわたる指導や懲戒処分(訓告・出勤停止・減給等)を行っても改善がみられないといった事情が証拠上認められなければ解雇が有効とは認められません。
これを本件についてみると、Aさんの行動が社会常識に明らかに逸脱しているとまではいえなかった上、H社はAさんに対する指導・注意は行っていたものの懲戒処分は一度も行っておらず、解雇は困難と思われる状況でした。
その後、Aさんは、弁護士に依頼して解雇無効を前提とした労働者の地位確認、不当解雇に伴う慰謝料100万円を求める訴訟を提起しましたので、当事務所がH社の代理人に就任することになりました。
弁護士の活動
当事務所は、Aさんの上記問題行動を詳細に主張立証することで、H社のAさんに対する解雇が有効である旨の反論を行いました。
もっとも、上記のとおり、本件は解雇が困難と思われる状況であったため、本件解雇が無効と判断されれば、実際にはAさんが稼働していないにもかかわらず、H社は解雇後の賃金の支払義務をAさんに負うリスクが大きいこと等から、当事務所は、当初よりAさんと和解する意思があることを裁判所に伝え、訴訟期日において和解協議を行うことにしました。
なお、H社としては、AさんがH社に復職することだけは避けたいと考えていたため、Aさんに自主退職してもらう代わりに解決金を支払う形で和解できるよう協議を行いました。
解決結果
その結果、Aさんの自主退職を前提に、月額給与の約9か月分(150万円)の解決金を支払う旨の訴訟上の和解が成立し、解決に至りました。 なお、I社は、業務災害を補償する損害保険に加入していたため、一部自己負担は発生したものの、解決金の一部や弁護士費用は上記保険から賄うことができました。
弁護士のコメント
今回のケースのように、会社が行った解雇が無効になる可能性が高い場合には、これを前提として従業員に自主退職してもらう代わりに解決金(バックペイ)を支払う方法を検討すべきです。
無効になる可能性が高い解雇の有効性にこだわって訴訟を継続することは、将来的に敗訴判決を受けた場合は解雇後の給与相当額をまとめて支払う義務が発生する上、従業員を退職させることもできない最悪の結果を招いてしまうことがあるからです。
また、解雇を安易に行うことで従業員と雇用主との間に感情的な対立を生んでしまい、退職に関する話し合いも上手くいかなくなる可能性も高まります。
問題社員を退職させたいと考えている会社は、解雇に踏み切る前に、是非、労務管理に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。
文責:弁護士 永野 賢二